経験という力
ある日のバス停での出来事。私はバスに乗り込むために、並んでいた。前のドアが開いて、列が前へ進んだ。ところが、私の前にいる人が立ち止まったまま、進まずにいた。外国人らしき女性で、ベビーカーに子どもを乗せていた。
一瞬、なぜ進まないのだろうと思ったが、すぐに自分のやるべきことが分かった。私は、後ろのドアを指差して言った。
「ここのドアを開けたいのですか?」
「はい・・・。」
そこで私は運転手さんの方へ行き、言った。
「すいません!ベビーカーの方が、後ろのドアから乗りたいそうです。」
ここで、子育てについて知らない方むけに、子ども連れの外出について話しておきたい。まず、持ち物について。着替えは1~2セット、オムツ2~4セット、おしりふき、ビニール袋、飲み物、おやつ…最低でもこのくらいは、いつも持っていく。
最初のうちは、あれもこれも念のためにと持っていったが、慣れていくにつれて、減っていった。子どもを抱っこして、荷物を持つと、それだけで疲れてしまい、外出先で用事を済ませたり、子どもを遊ばせて、帰りに買い物をしたりするだけのパワーが残せない。
これは、人によると思うのだが、私は抱っこより、断然ベビーカーをよく使っていた。しかし、ベビーカーでバスに乗らなきゃいけないときは厄介だ。
私の地域のバスは料金前払いのため、基本は前から乗車する。前の入り口は、だいたいが階段になっていて、ベビーカーを持ち上げるのは困難だ。さらに、入った先の通路はせまくてベビーカーで通るにはきびしい。
一方、後ろのドアだと通路が広い。また、中には階段のないタイプのバスもあって助かる。車があれば、バスに乗らなくても済むのだが、車はなく免許も持っていないため仕方なくバスを使う。
バスが混んでいるときには、ベビーカーをたたまなくてはならないのだが、荷物とベビーカーを持ち、子どもを抱っこするのは、余りにもきついと、30分ほど坂を上り下りする場合でも、乗車をあきらめることもある。そのくらい、肩身が狭いのだ。
専業主婦で、子育てをしていると、社会から切り離されて、自分は何の役にもたたない人間なんだと思うことがある。家事や育児はやるのが当たり前で、全部完璧にできなければいけない。「働いて、お金を稼いでいるわけでもないのに」と人に注意されるたび、言われているように思う。
しかし、たとえ英会話ができる人であっても、子育ての経験がなければ、ベビーカーに子どもを乗せて連れていく人の状況を、瞬時に理解することはできない。
自分も、人の役にたてるかもしれないと、気づかせてくれた出会いに感謝したい 。